さっき、仕事から帰ってきたら、コロスケ(犬)が毛布に包まれて寝てた。犬小屋からちょっと出たところで。寂しそうに。
そっとのぞいたら、目はすでに閉じていて、震えていた。「おーい、コロスケ!」
俺は叫んだ。そして、コロスケの頭をなでた。コロスケは、やっとの思いで目を開けてくれた。だけど、その目に力はなく、よわよわしかった。
「おーい、コロスケ。俺だよ。俺。返事をしてくれよ。」

返事はない。

「お前は一体どこを見ているんだい。」

胸の奥から、悲しみがこみ上げてきた。

俺はもう一度、コロスケの頭をなでた。いつもより、しっかりと。そして、いつもより、優しく。

母親と父親も、犬小屋の辺りに来ていた。
「P太郎。コロちゃん今日で最後かもしれないから、ちゃんと見ておくのよ。」母親は目に涙をためていた。俺は、コロスケの毛布の中に手を入れ、胸をさすってみた。


温かかった。

「さっきまで目が開かなかったんだけど、開いてるな。」父親が言った。


「コロちゃんは、飼い主であるあなたを待っていたのよ。」
母親がつぶやく。



俺は、コロスケとの別れを悟った。

「今晩は冷えるから。」
父親が寂しそうに言った。 

俺は、コロスケにそっと毛布をかけてあげた。

17年間、俺はコロスケと一緒に生きてきたんだ。


コロスケへ
子どもの頃、一緒にサッカーをしたっけな。お前と一緒に、マラソンもしたっけな。お前、俺より足が速いんだもの。ついていけなかったよ。

一緒に散歩もしたっけな。俺は自転車、お前は歩きで。
田舎道をまっすぐ、遠くまで、遠くまで、ずっと遠くまで行ったっけな。

覚えているかい?

気が付けば、もう黄昏どきで、夕日がやけにまぶしかったっけ。
おてんとさまが、俺とお前を照らしていたんだよ。

お前の顔、おかしかったよ。だって、みかんみたいになっているんだもの。
お前はもともと色が白いから、余計にみかん色に染まったんだろうね。

でも、お前、俺のほうもよく見てたよな。変な顔して。

もしかしたら、俺も、みかんがおだったのかも。

そんなお前と、歩き続けた17年間。俺が大きくなる度に、お前は小さくなっていったよな。俺はそんなお前を見ていて、自分の成長を素直に喜べないときがあったよ。なんでお前だけって、思ったからさ。

コロスケ、聞いてるか。

今夜はずいぶん冷えてて、寒いな。


コロスケ、聞いてるか。


俺は寒くて凍えそうだよ。


でも、部屋を暖かくするつもりはないよ。




コロスケ

寒くないか





コロスケ


毛布は暖かいか




コロスケ


寂しくないか



コロスケ

今夜はぐっすり眠れるといいな



コロスケ



また 会おう


夢の中で




コロスケ





コロスケ






おやすみなさい




平成17年11月10日(木)

兄貴より



俺はクローゼットの奥のほうへ手を伸ばし、着ふるしたトレーナーを取り出した

そして犬小屋に行き、コロスケの背中に、そっとかけてあげた。

「これで、寒くないだろ。」




「コロスケ、覚えてるか。お前と散歩へ行くときに、よくこのトレーナーを着たんだぞ。これ、とってもあったかいから、俺のお気に入りなんだ。」

「懐かしい、においがするだろ。」


俺は、コロスケの胸に手をあてた。体はさっきより冷たくなっているような気がした。

でも、「トク トク トク・・」
と、鼓動が俺の手の中で 小さく鳴り響いていた。


いつまでも



いつまでも




鳴り響いていてほしい






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