トンネル〜ゆりちゃんとの恋〜
午後10時
静まり返った町の片隅を、俺は西へ西へと歩いていた。真冬の寒さに凍えながら
も、一筋の光を求めていたのだ。
「超○太郎」
そう書かれた立て看版を見つけた。
気づけば俺は、古びた雑居ビルの前にたどり着いていた。そして、どこからか、
昭和の匂いが漂ってくるような「おんぼろエレベーター」に足を踏み入れる。
「ピンポーン」
エレベーターのドアが開き、黒服の男が目の前に立っていた。俺はゆりちゃんの
名前を伝えると、すぐに中へ案内してくれた。
薄暗い空間に、ほのかに見える男女の営み。ついにやって来たんだという実感が
、俺の心を高揚させる。
古びたテーブルと気のきかない椅子は、以前そこがキャバレーであったことを、
鮮明に伝えている。
俺は、黒いソファーに身を委ねた。
数分後、白っぽいドレスに身を包まれた女性が、奥の扉から出てくるのが見えた
。ゆりちゃんとは似ても似つかない、それはまるで、「のっぺらぼう」のような
表情のない女だった。
俺は一瞬、氷のように固まってしまったが、状況をすぐに読み取り、平静を装っ
た。
「ゆりちゃんではないな。」
俺は、すぐ下を向き、自分の冴えない顔を隠した。その女は、俺の座っているソ
ファーめがけて一直線にやってきた。近くまで来たと思ったら、突然、ニコッと
微笑み、俺のすぐ隣りに腰をおろした。馴れ馴れしい態度とその微笑み方から、
その女が信じられないことに「ゆりちゃん」であることを、今更ながら気が付い
た。
「美しいゆりちゃん」
俺の固定概念が一気に崩れ落ちた瞬間だった。
「ちょっと風邪を引いちゃって。」
彼女の発した何気ない一言が、全てを物語っていた。
いつもより元気がないゆりちゃん。パサパサになった肌が、残光に照らされて異
様に目立っていた。
いつも青々と輝いている目も、今日は曇っている。
「晴れのち雨」
俺は心の中で、ひとりつぶやいていた。
話はいつもと同じように、それなりにしたように思う。話の途中で見せる、ゆり
ちゃんの美しい笑顔は最高だ。その笑顔から、彼女の優しさが伝わってくる。
でも、笑顔が終結したときに見せる無の表情は、彼女の「陰」の部分を露呈させ
る。冷たく、どことなく変化の乏しいその表情は、俺の潤い始めた心を、一気に
乾かしてしまう。
「何かが違う。」
心の中で、何度も何度も首をひねっている俺がいる。
その間、機関銃のように喋りまくる彼女を見て、
「おとなしさと、控えめさがウリな彼女は、どこへ行ってしまったんだろう。」
と絶望感でいっぱいになった。
「これでは、その辺のおばちゃんと変わらないじゃないか。」
乾ききった俺の心を、悲しみの涙で、自ら潤す所だった。
「でも、これがゆりちゃん、いやいや女という動物の本当の姿なのかもしれな
い。」
俺は冷静に、状況を分析していた。
結局、ゆりちゃんとは適当な話をして、終わった。
「お客様〜」「お客様〜」
「こちらお会計になります。」
黒服の男が差し出した会計表には、
「2万うんたら円」
と手書きの文字で、流れるように書かれていた。
「うそだろ!」
俺は一瞬目を丸くしたが、ゆりちゃんに動揺心を悟られては困ると、必死で
平静を装い、財布に手をやった。残り少ない札束に、俺は泣きそうになった。
彼女との、恋の陰りが見え始めた、何とも意味深で不気味な夜を過ごした気がす
る。
酒に酔った俺は、凍えた体を丸めながら、静かに静かに駅へと向かった。
月は、そんな俺の背中を優しく照らし続けていた。
完
静まり返った町の片隅を、俺は西へ西へと歩いていた。真冬の寒さに凍えながら
も、一筋の光を求めていたのだ。
「超○太郎」
そう書かれた立て看版を見つけた。
気づけば俺は、古びた雑居ビルの前にたどり着いていた。そして、どこからか、
昭和の匂いが漂ってくるような「おんぼろエレベーター」に足を踏み入れる。
「ピンポーン」
エレベーターのドアが開き、黒服の男が目の前に立っていた。俺はゆりちゃんの
名前を伝えると、すぐに中へ案内してくれた。
薄暗い空間に、ほのかに見える男女の営み。ついにやって来たんだという実感が
、俺の心を高揚させる。
古びたテーブルと気のきかない椅子は、以前そこがキャバレーであったことを、
鮮明に伝えている。
俺は、黒いソファーに身を委ねた。
数分後、白っぽいドレスに身を包まれた女性が、奥の扉から出てくるのが見えた
。ゆりちゃんとは似ても似つかない、それはまるで、「のっぺらぼう」のような
表情のない女だった。
俺は一瞬、氷のように固まってしまったが、状況をすぐに読み取り、平静を装っ
た。
「ゆりちゃんではないな。」
俺は、すぐ下を向き、自分の冴えない顔を隠した。その女は、俺の座っているソ
ファーめがけて一直線にやってきた。近くまで来たと思ったら、突然、ニコッと
微笑み、俺のすぐ隣りに腰をおろした。馴れ馴れしい態度とその微笑み方から、
その女が信じられないことに「ゆりちゃん」であることを、今更ながら気が付い
た。
「美しいゆりちゃん」
俺の固定概念が一気に崩れ落ちた瞬間だった。
「ちょっと風邪を引いちゃって。」
彼女の発した何気ない一言が、全てを物語っていた。
いつもより元気がないゆりちゃん。パサパサになった肌が、残光に照らされて異
様に目立っていた。
いつも青々と輝いている目も、今日は曇っている。
「晴れのち雨」
俺は心の中で、ひとりつぶやいていた。
話はいつもと同じように、それなりにしたように思う。話の途中で見せる、ゆり
ちゃんの美しい笑顔は最高だ。その笑顔から、彼女の優しさが伝わってくる。
でも、笑顔が終結したときに見せる無の表情は、彼女の「陰」の部分を露呈させ
る。冷たく、どことなく変化の乏しいその表情は、俺の潤い始めた心を、一気に
乾かしてしまう。
「何かが違う。」
心の中で、何度も何度も首をひねっている俺がいる。
その間、機関銃のように喋りまくる彼女を見て、
「おとなしさと、控えめさがウリな彼女は、どこへ行ってしまったんだろう。」
と絶望感でいっぱいになった。
「これでは、その辺のおばちゃんと変わらないじゃないか。」
乾ききった俺の心を、悲しみの涙で、自ら潤す所だった。
「でも、これがゆりちゃん、いやいや女という動物の本当の姿なのかもしれな
い。」
俺は冷静に、状況を分析していた。
結局、ゆりちゃんとは適当な話をして、終わった。
「お客様〜」「お客様〜」
「こちらお会計になります。」
黒服の男が差し出した会計表には、
「2万うんたら円」
と手書きの文字で、流れるように書かれていた。
「うそだろ!」
俺は一瞬目を丸くしたが、ゆりちゃんに動揺心を悟られては困ると、必死で
平静を装い、財布に手をやった。残り少ない札束に、俺は泣きそうになった。
彼女との、恋の陰りが見え始めた、何とも意味深で不気味な夜を過ごした気がす
る。
酒に酔った俺は、凍えた体を丸めながら、静かに静かに駅へと向かった。
月は、そんな俺の背中を優しく照らし続けていた。
完
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